一般社団法人 日本経済団体連合会
【抱負】
本日の総会をもって経団連会長に就任した。重責に身の引き締まる思いである。4名の新任副会長を含めた総勢19名の副会長をはじめ、皆さまのご支援、ご協力をいただきながら職務を全うする所存である。
事業方針に掲げた成長と分配の好循環を実現し、公正・公平で持続可能な経済社会を構築すべく、激動する現下の課題に対応するとともに、「FUTURE DESIGN 2040」の実現に向けたロードマップを描き、「科学技術立国」と「貿易・投資立国」の実現へ邁進していく。
内政、外交ともに難しい舵取りを迫られる時代だからこそ、常に世界の動きを見据え、「中長期の視点」と「日本全体の視点」を大切にし、「フロントランナーとして将来世代への責任を果たす経団連」を目指す。国民の皆様のご理解と後押しが不可欠であり、積極的な発信を行っていく。報道機関の皆様とも密に対話をし、政策実現に向けて取り組んでまいりたい。
〔「中長期の視点」と「日本全体の視点」を重視するとの発言について問われ、〕いずれも自らが育ってきた仕事の環境の中で自然と身に付いてきたことであり、経団連会長として活かせる視点ではないかと考えている。トランプ関税に対する対応一つとっても、短期と中長期では対応が異なり、また都市部と地方でも対応は異なりうる。二つの視点は必ずしも独立ではなく、相互に関連させながら課題解決に当たっていくことが重要である。
【社会保障制度改革】
〔社会保障制度改革の議論の進め方について問われ、〕社会保障制度改革の議論を進める中で、世代間対立を極小化していく努力が必要である。給付と負担の構造を見える化し、国民的な議論を巻き起こしていくことで、現役世代の負担軽減に繋げたいという思いが強く、経団連も、積極的かつ明快な発信を常に心がけなければならない。
同時に、会員企業や地方経済団体、国民の皆様といった現場との対話を、経団連だけでなく、官民連携で進めていく必要がある。
〔富裕層の負担拡充や企業の負担増について考えを問われ、〕社会保障制度について、経済成長、人口増加の局面では見えていなかった問題が、少子高齢化が進む中で顕在化してきている。助け合いの仕組みであるこの制度を持続可能にしていくためには、応能負担の徹底が基本である。例えば、超富裕層の課税、所得税の所得再分配機能の強化、資産課税の強化といった施策の検討が必要である。
「FUTURE DESIGN 2040」で示しているとおり、様々な課題が相互に絡み合う「入れ子構造」を成していることから、社会保障制度も、地方創生等、様々な課題に関係している。そうした社会保障制度の持続可能性を確保する観点から、企業として応分の負担をすることは、当然、考えていかなければならない。
【トランプ関税】
〔米国際貿易裁判所が、トランプ政権による関税措置の一部を差し止めたた(28日)ことについて問われ、〕一部と言わず、他の全ての関税も差し止めてほしいという思いである。米国内でチェック・アンド・バランスがきちんと働くことを期待したい。トランプ政権は控訴しており、推移を見守りたい。
〔赤澤大臣が30日に訪米し関税交渉に臨むことに関連し、トランプ政権とどう向き合うべきかを問われ、〕交渉を通じて、両国間の隔たりが少しでも埋まり、ゆくゆくは全ての懸案が解消することを期待する。先般の協議では、合意までまだ距離があるという印象であった。6月のG7サミットにて日米両国の首脳が接点を持つ可能性も考慮すると、今週末の交渉は極めて重要であり、注視したい。あくまで対等な立場で交渉に臨み、対話を重視することが重要であろう。
〔トランプ関税による影響の程度が業種や企業規模で変わる中、経団連としてどのように意見を取りまとめていくかを問われ、〕部分最適に意を配ることも重要ではあるが、影響の程度の違いも踏まえ、会員企業を始めとする経済界に広く理解してもらえるような形で全体最適を目指し、包括的なメッセージを発信していきたい。
【イノベーション】
〔イノベーションの促進を掲げる中で、スタートアップやコンテンツ産業についての考えを問われ、〕重要課題にイノベーションをあげたのは、日本の研究力の低下がさらなる研究人材の減少を招き、ひいては産業競争力の低下を招きかねないという強い危機感を持っているからである。科研費(科学研究費助成事業)を少なくとも倍増させるなど、政府が世界の先進国並みに科学技術に投資をし、それを呼び水に民間の投資を促進していくことが重要である。
イノベーションを喚起し、国内投資を促進していく上で、スタートアップやコンテンツは重要な分野である。スタートアップはイノベーションの源泉であるが、スタートアップの数とレベル(いわゆるユニコーン企業の数)の拡大は道半ばである。コンテンツについても、日本発コンテンツは国内外で人気を博しているものの、世界との競争は激化していると認識している。両分野への投資が促進されるよう、引き続き環境整備に取り組んでいく。
【コメの価格引き下げ】
〔コメの価格引き下げに向けた、小売業界の会員企業への呼びかけといった対応の予定について問われ、〕現在、コメの価格引き下げに向けて、小泉農水大臣は非常に精力的に取り組まれており、期待している。短期的なコメの価格低下は重要である一方、中長期的には、農業政策、食料政策における構造的な課題があることについては政治の側と共通の認識を持っていると思う。経団連としても継続的に発信していく。
個別の業界、企業に対して呼びかけをする必要があれば検討するが、現時点では考えていない。
【郵政民営化】
〔郵便局網の維持に公的資金を充てることなどを盛り込んだ郵政民営化法の改正法案が自民党の総務会で了承されたことについて問われ、〕民間企業であってもユニバーサルサービスの提供は可能であり、生命保険業界としても提供してきたという自負はある。今回の法案がまとめられた背景には、郵政事業のユニバーサルサービスを支える仕組みを見直さなければならないという考えが基調としてあったと思う。今後も、競争環境の公平性を担保し、民業圧迫とならないよう主張していく必要はあろう。