
この度、経団連会長に就任いたしました筒井義信です。
さて、世界は近年ない程の危機に直面しています。戦後営々と築かれてきた国際秩序は、米中対立の激化や、ロシアによるウクライナ侵略等により、大きく揺らいでいます。こうした中、米国が打ち出している関税政策は、各国の繁栄の礎となってきた自由貿易体制に深刻な影響を及ぼしかねません。また、地球環境問題への対応も待ったなしの状況です。わが国では、少子高齢化・人口減少、資源・エネルギー制約をはじめとする構造的かつ複雑な課題が山積しています。
こうした混迷の時代にあって、数々の難題に真正面から立ち向かい、打開策を見出すことこそ、経団連に課せられた使命です。そこで、経団連は昨年12月、「FUTURE DESIGN 2040」を公表し、2040年を展望して、わが国の未来社会の姿とそれを実現するための政策を提言いたしました。
本年度は、同ビジョンの実現に向けた初年度です。経団連は、「FUTURE DESIGN 2040」のロードマップを描き、「科学技術立国」と「貿易・投資立国」による成長、「公正・公平で持続可能な社会」の構築に向けて全力で取り組んでまいります。現下の危機に対して迅速に対応するとともに、中長期の観点から、各種施策の優先順位を整理し、「成長と分配の好循環」を着実に実現してまいります。
具体的には、次の五つの政策分野に取り組んでまいります。
第一は、イノベーションです。デジタルトランスフォーメーション、グリーントランスフォーメーション、スタートアップ振興等、成長のカギを握る施策について継続して取り組みます。また、「科学技術立国戦略特別委員会」を新設し、わが国が目指すべき科学技術立国への道筋を描くとともに、これを支える教育から基礎研究、応用研究、社会実装、産業競争力強化を一気通貫で深掘りし、戦略を取りまとめます。
第二は、税・財政・社会保障の一体改革です。社会保障制度の持続可能性の確保のため、わが国の財政健全化の視点も重視しつつ、給付と負担、とりわけ負担のあり方に関する税を含む一体的な改革の実現を強く求めてまいります。
第三は、地方創生です。全国を8程度の広域ブロックに分け、経済発展に向けた各地域のビジョン策定の推進を通じ、現行の地方自治体の垣根を越えるより広い圏域での広域連携、「新たな道州圏域構想」の実現を目指します。
第四は、生産性向上に向けた労働改革です。「物価上昇に負けない賃金引上げ」を持続可能とするためには、企業の生産性の改善・向上が重要です。その実現には、円滑な労働移動の推進や、裁量労働制等の労働法制の抜本的な見直しが不可欠です。
第五は、経済外交です。わが国が「貿易・投資立国」を実現する上で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化が不可欠です。こうした観点から、同志国と連携して、ルール形成等において一層のリーダーシップを発揮することを政府に求めてまいります。併せて、「グローバルサウス委員会」を新設し、成長著しいグローバルサウス諸国との連携強化に取り組むとともに、わが国の有するソフトパワーも活用して民間経済外交を積極的に展開いたします。
そして、これら五つの取り組みを進めるにあたっては、安価で安定的なエネルギー供給の確保が欠かせません。「第7次エネルギー基本計画」の具体化と着実な実現を図ってまいります。
このような時代だからこそ、企業がフロントランナーとしてわが国の進むべき道を示し、強い覚悟をもって未来を切り拓いていくことが不可欠です。私は、常に世界の動きを見据え、「中長期の視点」と「日本全体の視点」の双方を大切にしつつ、将来世代への責任を果たす経団連を目指してまいります。会員企業の皆様には、引き続きお力添えいただきますよう、宜しくお願い申しあげます。
会長 筒井 義信