吉成氏
経済産業省は、わが国のGDPの約7割を占めるサービス産業の競争力強化の一環として、同分野での標準化の戦略的活用を目指している。2023年10月には「サービス標準化ワーキンググループ」(以下、WG)を設置し、標準化の活用類型の整理などを進めている。
25年3月には、日本産業規格(JIS)のサービス規格の作成を検討する関係者向けの「サービス規格作成のための入門ガイド」改訂版を公表するなど、標準の活用推進に向けた具体的な案件形成、規格開発を進めるための環境整備に取り組んでいる。
これらを踏まえ、経団連は11月17日、「サービス分野における標準化活用に関する説明会」を東京・大手町の経団連会館で開催し、経産省イノベーション・環境局国際標準課の吉成崇宏課長補佐から説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ サービス分野の標準化
日本のサービス産業は国際的に高品質と評価される一方、労働生産性の低さ、事業者の規模の小ささや多様性の欠如、サービスに対する共通の評価軸の整備不足など、構造的な課題を抱えている。特に品質の評価が難しいサービスでは、消費者が価格のみで判断せざるを得ず、適切な選択のための情報が不足している。
こうした課題の解決手段として、標準化は品質の可視化やトラブル防止、健全な競争の促進に寄与する。
一方で標準化を進めると「サービスが均質化して差別化できなくなる」「大手向けで負担が大きい」といった誤解もある。
しかし共通部分を標準化することでむしろ差別化の余地が広がること、小規模事業者でも標準活用によって事業拡大につながった事例があること、プロセスの明確化、人材確保、長期的なコスト削減に寄与することなど、事業者・消費者双方に利点がある。
ロボットを用いたサービスの安全運用やスキューバダイビングの訓練に関する国際規格、おもてなし規格認証などの具体例で、各サービスの信頼性向上に貢献している。
■ サービス標準化の案件開発状況
WGの取り組みの一つに、サービス分野で標準化に取り組むべき新たな「案件発掘」があり、発掘に当たっては、社会的関心が高く、産業規模の大きい分野を重視している。
例えば観光分野では、議論が活発化する国際標準化機構(ISO)に、国内関係者がPメンバー(議決権を持つ参加メンバー)として参画している。エステティックサービスのJIS開発や、ブロックチェーンによるコンテンツ契約のISO規格開発といったパイロット案件も進展している。
いずれも標準化の経験に乏しい事業者が主体的に関与しており、関係者調整のノウハウなど多くの知見が蓄積されてきている。
■ サービス標準化の環境整備状況
WGのもう一つの取り組みである「環境整備」では、「サービス規格作成のための入門ガイド」の大幅改訂を進め、目的設定から適合性評価の検討まで、規格作成の基本的な流れを整理した。
サービス分野は利害関係者が多く、合意形成が難しいといった傾向を踏まえ、実務的なポイントを分かりやすく示している。日本産業標準調査会(JISC)のウェブサイトでも関連情報の集約を進めている。
海外での認証事例の調査では、今後日本でサービス分野における認証制度創設の参考事例となり得る11件を選定し、深掘り調査を実施している。具体的には、コンタクトセンター、カスタマーサービス、フィットネス、葬儀、在宅サービスなど、国内のサービス標準化の参考となる事例を抽出した。
WGでは、案件開発と環境整備を連動させながら検討を進めており、25年度末にその成果をまとめる予定だ。
【産業技術本部】
